2007-03-01から1ヶ月間の記事一覧

キャラ系

名前は一昨日光(いっさくじつひかる)。かなり昔に得たちょっとした栄光に執着して生きている探偵。弱々しくダメな人間だが、記憶に執着したおかげで難事件を解決したりする。 彼は探偵業での成功を栄光としてとらえない。今の職業は親から無理やりに継がさ…

平日昼間

オフィス街の路上、首に携帯電話をはさんで話すサラリーマンがいる。背筋が伸びている。両手は何ももたずにぶらんと下げている。完成度の足りない「気をつけ」の姿勢。 道行く人は、彼を見るとそれなりに怪訝な顔をして通り過ぎていく。どうして手を使わない…

くらりくらりと倒れ込んだと思えば、それは嘘。 倒れ込んだように見えたのは脱皮した皮で、中身の本体は直立の姿勢のまま。揺れていたのは、脱げ落ちる直前の皮が風でたなびいていただけ。 なんだそうか、と気付きの喜びに表情を和らげる僕。 笑顔で、また新…

追ってきた故郷

見ず知らずの人物から、声をかけられた。 その声の内容は「ヨッ!」という気さくな挨拶で、しかし僕は彼のことを一切知らない。緑色の変なフリースに、緑色の変なズボンに、緑色の変な顔面、緑色の変な手足。こんなやつとは同僚ではないし、クラスメイトにな…

不動の中枢

布団でぐっすり寝ていたのを寒気で起こされた。 頭ががんがんする。掛け布団は僕のうつ伏せの姿勢に一体化し、まるで熊を剥いで作られた敷物になったかのような感覚だ。薄っぺらな僕は、頭のすぐ上にあるパソコンデスクに手を伸ばしても届かないような気がし…

制限付き文章イベント

本文中、3回以上の絶叫を書かなくてはいけない縛りの付いた短編・掌編の文章募集イベント。 絶叫に意味のある単語を含んではならない。すなわち「わあああぁぁぁあぁ!」だの「ぐええぇぇぇぁあああおう!」だの「キィィィイィイイイイイイイアアア!」だの…

夢のこと

地べたに置いてあるラジカセ。中に入っているカセットテープは何だろうと思って、再生してみた。 スイッチを押した瞬間、ラジカセに僕の顔が吸い付けられた。本体の正面から突き出たスイッチに、歯が強すぎるくらいに勝手に噛みついて、離そうとしない。ラジ…

無のループ

タイルを敷き詰めるがごとく、僕はタイルを敷き詰めるがごとく、タイルを敷き詰めるがごとく、君はタイルを敷き詰めるがごとく、タイルを敷き詰めるがごとく、…。 永久に頭の中でくり返されるループな音声。 そんな中、僕がやっているといえば電子レンジの中…

ブランコ

早朝の水っぽいような紺色の空。僕は、近所の公園でブランコに乗っていた。 きいきいと金属を鳴らしながら、ブランコは僕の身体を前後に大きく揺らす。風圧で髪がもち上がり、景色が素早く変わる感覚が楽しい。風と金属が合わさった音も好きだ。 子供の頃か…

水の保水力

水の保水力はすごい。 そのまま放置してるだけで明らかに水だし、温度を上げれば水蒸気、温度を下げれば氷と、どこまでも「水」がついてくる。分子レベルまで分解したところで、それはそのまま「水」だ。原子レベルにまで分解しないと「水」を捨てることはで…

童話「驚かないアラバ」

あるところに、今まで一度も驚いたことがないアラバという男がいました。 アラバは、ここハヤ村とモリ村を結ぶ道路で「私を驚かしてみろ」と言いながら座り込んでいます。アラバを驚かさないと、通してもらえません。 今日もアラバは驚きません。邪魔でした…

その名称

フェニックスだ。 それはパン生地が体の多くを占めており、形は巻貝のようだった。残りはチョコクリームである。 これはフェニックスではなく、チョココロネという菓子パンではないのかと一瞬思った。しかし、これは間違いなくフェニックスなのだ。手前にあ…

公園にて

太陽が笑っていますね。 そう僕に告げた彼女は笑みを浮かべて、くすくすと声を漏らした。 彼女と出会ったのは、つい先ほどのこと。 僕が日課としている公園での散歩を終え、ベンチで新聞を眺めていると、隣のベンチから彼女がニュッと誌面を覗き込んできたの…

基本的な流れ

手術中。医師が「医療器具」と言った。隣にいた看護婦は返事をしてその場を離れると、メスに点滴にレントゲンにMRIに胃カメラに聴診器など、など、医療器具と分類されるものすべてを持ち手術室へと戻ってきた。 お礼を述べる医師。医療器具の山からガーゼ…

不意に気付く

無くなりかけのティッシュ。箱の側面にあるミシン目を開け、接近して中を覗く。 見える景色は、色があまりなく、それどころか目を引くものも何もない。地味。予想を下回りもしないけど、超える要素ももっていない。とても地味。だけど、何かいい。 意外と広…

面白いだなんて思ってもいないものを面白いものであるかのように紹介し、誰かにそれを面白いものだと思わせることができれば勝ち。自分自身を騙すことができれば、もっと勝ち。