不動の中枢

 布団でぐっすり寝ていたのを寒気で起こされた。
 頭ががんがんする。掛け布団は僕のうつ伏せの姿勢に一体化し、まるで熊を剥いで作られた敷物になったかのような感覚だ。薄っぺらな僕は、頭のすぐ上にあるパソコンデスクに手を伸ばしても届かないような気がした。そもそも僕には筋肉がないので、手を伸ばそうという基本的な行動さえ達成できない。
 布団の中で震えることもなく、ただ寒さと錯覚に耐えていた。
 そう、何かは錯覚なんだ。
 もし僕にそれなりの筋肉があれば、手を伸ばし、パソコンデスクに触れることが出来るのではないか。首の角度的に目測はできないが、記憶ではその程度の高さしかなかった。
 だがパソコンデスクに触れてから、どうする。デスクを支えに起き上がってみようか。電源も入れてみよう。OSの立ち上がりを待ってキーボードに触れると、指が太短く毛だらけで、あまり自由に動いてくれないことを思い出してショックを受けた。一度のキータッチで3つのキーを同時に押して、パソコンのスピーカーからではなく本体から短い警告音を鳴らしてしまう。光学式の無線マウスに触れると、電池残量がないからかポインタは動かない。電池はどこだ。すぐに見つけた。でも補充が難しい。落ちた。落ちた。拾いづらい。拾いづらい。落ちた。電池を補充するのにとても不便な指。しだいに僕は焦ってきて、ギリギリと歯を鳴らす。
 僕は錯覚に飲み込まれていた。
 感情から指を折り曲げ、感触から敷き布団の存在を思い出すまで、僕はずっと熊を剥いで作られた敷物だった。掛け布団は、僕の体の重要な一部分だった。