追ってきた故郷

 見ず知らずの人物から、声をかけられた。
 その声の内容は「ヨッ!」という気さくな挨拶で、しかし僕は彼のことを一切知らない。緑色の変なフリースに、緑色の変なズボンに、緑色の変な顔面、緑色の変な手足。こんなやつとは同僚ではないし、クラスメイトになった記憶も一切ない。
 多少興味はあるが面倒なので、聞こえなかったふりをする。彼は、語気を強めてさらに肩を叩いてきた。慣れ慣れしさも倍増していた。
「ヨッ!」
「ヨッ!」
「ヨッ!」
「ヨッ!」
 どうしよう。
 こうも繰り返されると、こっちも気軽に返したほうがいいんだろうかと思えてくる。けれど僕は緑色ではないし、確実に彼の仲間ではないんだよな。変に気軽に返事をして、周囲の人たちに勘違いされても恥ずかしいというのもある。僕は緑色ではなく、ベージュ色だ。
 ベージュ色のコートに、ベージュ色のズボンに、ベージュ色のアクセサリーに、緑色の変な肌。
 ベージュ色のほうが占めている割合が大きいので、僕は確実にベージュ色である。彼の仲間では決してない。だから「ヨッ!」にも返事をしようとは思わない。絶対に思わない。