くらりくらりと倒れ込んだと思えば、それは嘘。
 倒れ込んだように見えたのは脱皮した皮で、中身の本体は直立の姿勢のまま。揺れていたのは、脱げ落ちる直前の皮が風でたなびいていただけ。
 なんだそうか、と気付きの喜びに表情を和らげる僕。
 笑顔で、また新しいことに気付く。
 その中身は、表面のところどころにシワのような歪みがあり、毛が生えておらず、照りがあって、質感が爬虫類にそっくりな二足歩行の生きものなのだが、これを以前にも見た記憶があるのだ。
 たしか昨日と先週の月曜日にみた夢だったか。
 今のように、僕は生きものが脱皮をしているのだと最初は気付かなかった。気付いて僕は喜び、生きものは脱皮の直後で腹が減っているのか、唾液にまみれた舌を出し入れしていた。場所も2丁目のバス停の横から抜けていく路地裏で、どこにも違いはない。
 最初にみた夢では、僕は何をすることもなく食い殺されてしまった。2度目の夢では、たまたま胸ポケットに入れていた(コサージュ代わりに付けていた)フライドチキンの足の部分を与えてやったら、生きものは嬉しそうに先割れの舌を伸ばし、僕に懐いてきた。この展開で目がさめた場合、かなり寝起きがよかった。
 つまり、これはあの夢のパターンなのだ。今、胸ポケットにフライドチキンがあるから、分岐としては後者だ。
 ラッキー。
 低血圧の僕はへらへらと考えながら、胸ポケットから出したフライドチキンの足の部分を生きものにプレゼントしてやる。生きものは嬉しそうに舌を伸ばすと、フライドチキンを巻き取り、ばりばりと骨ごと噛み砕いた。そして、僕に身をすり寄せ懐いてきた。
 心地の良い目覚めを期待して、棒立ちの姿勢で待ちぼうけ。しかし夢は一向に覚めず、むしろ肌からは爬虫類もどきの質感がリアルに伝わってきて違和感を受ける。
 やがて僕は退屈になって帰宅する。生きものはピョンピョン跳ねて勝手についてくるが、まぁいいかと追い返さずに招き入れた。
 今、僕らは同居している。
 生きものの作る味噌汁は家庭的で、非常にぬるぬるしていて、実家で母が作ってくれたものよりもうまい。言葉は通じないけど、性格も良いと思う。