童話「驚かないアラバ」

 あるところに、今まで一度も驚いたことがないアラバという男がいました。
 アラバは、ここハヤ村とモリ村を結ぶ道路で「私を驚かしてみろ」と言いながら座り込んでいます。アラバを驚かさないと、通してもらえません。
 今日もアラバは驚きません。邪魔でした。
 アラバはモリ村の村長の息子であり、ハヤ村の村長とも親戚関係にあったので、人々はあまり強く言えませんでしたが、やっぱり邪魔でした。
 こんなことが続き、互いの村の食料を提供しあうことによって栄養バランスを整えていた人々は、だんだんと体調に異常をきたすようになりました。具体的にはちょっとの運動で疲れやすくなったり、ストレスが溜まりやすくなったりです。
「こんなことじゃいけない」
 モリ村一番の知恵者であるダルガガスは考えました。
 どうすれば、アラバを驚かせることができるだろう。どうすれば、アラバを動かすことができるだろう。
 次の日、ダルガガスはアラバの前にずっしりとした麻袋を投げると、開けるように指示しました。何も期待しない仕草で袋を開けたアラバは、中を見るとがらりと表情を変えました。
「父さん、母さん…!」
 麻袋の中には、ナイフで胸を刺されて死んだばかりのアラバの両親が入っていました。
 ダルガガスは言います。
「アラバ。お前が通せんぼをしたのは、寂しかったからなんだよな。村長の家に生まれたことで、村の同世代の人間からはどこか距離を置かれ、両親は忙しくてろくに相手にしてくれない」
「そうだ。俺は、寂しかったんだ…」
 血のしみ出た麻袋に抱きつき、アラバは大きな声で泣きました。泣きながらアラバは、「ありがとう」「ずっとこれからは一緒だね」などと呟いていました。
 その様子を見ていたダルガガスほかの人々は、ただただ邪魔だと思っていました。