ブランコ

 早朝の水っぽいような紺色の空。僕は、近所の公園でブランコに乗っていた。
 きいきいと金属を鳴らしながら、ブランコは僕の身体を前後に大きく揺らす。風圧で髪がもち上がり、景色が素早く変わる感覚が楽しい。風と金属が合わさった音も好きだ。
 子供の頃から比べて体重は倍近くになったけれど、それでも同じ感覚で楽しめるというのは、考えてみれば素晴らしい遊具だ。2本の柱の先端同士を繋いだ棒から垂れたチェーンと座席。構造はこれほどにもシンプルだというのに。
 よくできた関係性。ただ、この構造を人間に置き換えたところで同様の結果を期待するのは難しい。
 うちの職場で言うと、田中さんと吉田さんは面倒見がよく地盤のしっかりしている感じがするので、2本の柱だ。彼らを繋ぐのが、体重が軽くてお調子者の平田くん。平田くんの腹の辺りから下がるチェーンは、さらに体重の軽い皆川さんと橋岡さん。この2人が足の先で座席になる板を支えて、僕はその板に乗り、揺れようとする。揺れる前に崩れる。
 どうしてこうも違うのか。
 お調子者の平田くんは、失敗のたびに顔色を青くさせながらもおだてると何度でも棒になってくれるんだけど、何度も失敗する。吐きそうにしながらも、ここで吐いたら場が下がると読んで我慢する。最近は、ブランコの構造を真似しない日でも常に気分が悪そうだ。本来の仕事ではあまり役に立たない彼だが、この場では頑張っている。
 だけど、頑張るのは僕と平田くんだけで、各々2本の柱とチェーンは「もうやめようよ」と消極的。こういう部分で協調性が無いから、ダメなんだ。
 ブランコでの失敗が続き、僕らの距離はどこか遠くなってしまった。業績も沈んだ。全員が疲れ、平田くんの仕事量が大幅に減ったこともあるけど、大きくは僕らの関係性の問題だ。僕らがひとつの纏まったブランコになれずにいるから、団体としての不調を加速させていくのだ。
 はぁ…。
 ため息をついて、人間って難しいなと呟く。
 その間も鳴っている金属の音は、平田くんを一旦溶けた金属に沈めて硬質化させてしまうという発想を僕に与えてくれたけど、それはちょっと、人道的にまずそうだから棄却した。