ある日の日曜

 丑三つ時。白装束に身を包み、頭に鉢巻きを結びろうそくを固定した人物が、神社の大木に人形を押し当て、五寸釘を打ち込んでいる。
 僕は、そんな怪談のワンシーンに憧れを抱いていた。月と炎のみに照らされる、あの激情に満ちた陰気な姿をコスプレ気分でやってみたいとずっとずっと考えていた。
 そして今日、憧れを実行するための道具が通販によって揃った。
 あとは丑三つ時を待つだけ……、だけど、いざ冷静に事を考えてみると、実行にはいくつもの障害があった。


・神社が近くにない ……庭でやろう
・深夜二時っていつも寝てる ……昼間にやろう
・木がない ……木の板なら何枚かあった
・白装束のサイズが合わない ……質感的にはアロハが似てる
・鉢巻きの締まりがしっくりこない ……ねじってから巻いてみようか
・ろうそくが熱い ……別にいらないんじゃないか
・人形が思ったより可愛い ……別にいらないんじゃないか
・恨みごとがない ……いいことだ


 トンテンカントンカン。
 トンカンカントンテン。


 ちょっとした棚が出来上がった。
 まあ、当初の目的通り何かのコスプレができたわけだし、大満足ではある。

「探しています!」

 家の鍵を落としてしまいました。
 鍵は一般的な金属製のもので、やや色汚れのある白クマの人形がついています。
 拾った方は、ぞぞ市加賀山2丁目8番229号の小田までお届けください。赤い屋根が目印です。
 なお、平日は朝9時から夜6時過ぎまで家に誰もおりませんので、お手数おかけしますが、できればそれ以外の時間帯にご訪問いただくようお願いいたします。近隣で仲良くしている方も、その時間帯にはそれぞれ自分の仕事があるため、誰一人として居ません。遠くに(かなり遠くに)出ています。
 先日貯金を引き出したばかりなため、お早めに届けていただけると非常に助かります。金庫がないので居間の畳(一枚だけ枠の色が緑でなく黒のもの)の下(畳の裏側という意味でもあります。素手では持ち上げづらいため、普段はテレビ台と本棚のちょっとした隙間に置いてある、おそらくテレビ台を購入したときに付いてきたのであろう余分な板を畳の一辺に差し込んで、てこの原理を利用してすこし持ち上げたところに指を引っ掛け、ぐいと持ち上げています。(二人いると作業が楽になります))に隠してはいますが、見つからないとも限りません……。
 とても不安です。
 発見した方は、どうか、どうか早急にお届けくださるよう、よろしくお願いいたします。

突如は、突如として

 僕が街中にいて、そして意味もなく裸になったのは冬のいつ頃だっただろう。
 当時、僕は架空のイソジンを扱う会社を経営していて、特別何か苦労することなく一生遊んで暮らせるだけの稼ぎを得ていた。仕事を通じて出会った、可憐で、人間としての芯をしっかりもった女性との交際も順調だった。
 幸せだった。
 ほんの三ヶ月前の話だ。
 不必要にも服を脱ぎ捨てたことで失ってしまった、全財産だ。
「どうして脱いだのか?」
 せまい部屋の中、刑事に尋ねられた言葉が心の奥深くに突き刺さっている。
「わからない」
 思い出に誘導されて、僕はつぶやく。
 デスクに積もったほこりが、吐息でかすかに揺れた。つい先日までは、ほこりにパソコンの形が残っていた気がする。よく見れば今も変わらないのかもしれないが、光が足りない。
「どうして脱いだのか?」
 本当に、僕はどうして脱いでしまったんだろう。
 事件を起こして以降、それまで僕のことを「新時代の荒武者」と称えていたマスメディアは、いっせいに僕のことを攻撃した。
 まずは人格否定。その次は仕事への大げさな、細かな事実を広げに広げた批判。詐欺だとも罵られた。
 瞬く間に仕事が失われていった。
 実体のない架空のイソジンが宙に浮いていた。
 物を送るわけでもない、データ上の物としても存在が無い、でも確かに売られていた架空のイソジン。インターネットを使って、本当に売っているかのように見せかけて売っていた、架空のイソジン。そんなイソジンだったから、市価の十分の一の値段で売りに出せた。
 それらしいウェブサイトを業者に作らせた後は、画面越しに「もう少々お待ちください」と打ち込んでみるだけで、人生が変わるほどの儲けが得られた。
「どうして脱いだのか?」
 わからない。
 上昇するだけの業績に気が大きくなっていたのか、街中で脱ぐことが正義とでも勘違いしていたのか。何か、プラスの価値を信じていたのか。推測もできない。
「最低」
 死体のように青白く固まった表情で僕を責め、恋人は去っていった。ボランティア気取りの、熱心な顧客に戻ることはあるだろうか。


「どうして脱いだのか?」


 ああ。
 一人目の刑事の言葉が繰り返される。

mistoa mistoa mistoa mistoa misToa misToa misloa *************** mistoa mistOa mist。a mlstoa nistoa mistoa mistoa misたa mistoa mi式oa mis武a mistoa mistoa mistoa mistoa mistoa mistoa mistoa misxxa mixxoa mxxtoa ぎgtoa mががa mぐtoa だだだ じぎぎ toatoa mmm misto mis

 mistoa vol.6が発行されました。
 http://mistoa.seesaa.net/

その他

 本日未明、都内で不審火が発生。家屋が全焼し、住人の馬尾俊人さんは全治3ヶ月の重症を負い市内の病院へと運ばれた。俊人さんの両親は偶然外に出ていたため怪我はなかったが、息子が生き延びていることが不服であるとし、近く、消火作業に当たった消防員らと俊人さんを起訴する予定。