真意と真意

 一人の男が「饅頭怖い」と告白した。
 それまで何物にも怯えない屈強な男を語っていた彼だけに、お前そんな間抜けた物が嫌いなのかと、周囲の小坊主は笑って彼を馬鹿にする。ちょっとの罵倒を混じらせながら、馬鹿にして、馬鹿にして、馬鹿にしまくる。
 そのうち男は「言葉を口にしただけでも気分が悪い」と言って、よろよろと寝室に帰っていった。
 小坊主どもは、しめた、と顔を合わせてニンマリ。こそりこそりと、音を立てないように台所の棚から大量の饅頭を持ち出すと、男の寝室へと投げ込んでいく。
 あの強がりの男はいつ饅頭に気付いて絶叫をあげるだろうか。どれくらいの時間が経てば、彼はいつもの無表情を解いて泣き声をあげるだろうか。いつ感情の鎧を脱いで、自分たちと向かい合ってくれるだろうか。
 小坊主は、どれだけ強引であれ、無表情を気取った彼が心を開く瞬間を期待していた。
 だが、寝室からは一つの音も聞こえてこない。
 寝てしまったのだろうか。
 饅頭を投げ入れるとき以上に静かに、静かに、ふすまを開けて覗いてみる。
 縦長の影がゆらり
 見慣れない寝室の飾りに小坊主どもが目をやると、そこでは男の首吊り死体が無表情にぶら下がっていた。