水の攻撃について

 頭の泡を洗い流していると、途端に右の耳の調子がおかしくなった。
 おそらく、少量の水が入り込んだのだろう。
 右の耳にうっすらと膜の感じがする。
 内外の気圧差のせいか、耳の穴周辺が耳の穴ごと内側に引き込まれるような感覚が続く。聞こえる音は全体的に鈍く、不定期に耳の奥で弾ける液体の音は実存以上に重たい。
 邪魔くさい。
 特に不定期な音は周りの音量がゼロに感じるほどやかましく、防水音楽プレイヤーから響いている楽曲を集中して聴いていると、余計にストレスを生んだ。その際、若干の痛みがあるのもまたストレスだ。
「水のくせに……」
 言っても水の妨害は弱まらず、僕はただ精神を痺れさせていくのみ。
 次第に、シャワーの水も敵に見えてくる。
 浴びていた自分が愚かに思えた。
 風呂場から出るときに、シャワーに向けて唾を吐きかけてやる。一粒の唾はシャワーの水に絡むと簡単に失速し、逆転劇もなく、そのまま排水溝の底へと流れていった。