メロンパンが好きで好きでたまらない人に一週間ほどメロンパンを絶食させ、似たもの、たとえば頭の面に井戸の「井」の字のような交差模様が描かれたちょっと珍しい種類の画鋲を見せれば「メロンパンだ!」と言って食らいつくだろうか。それとも食らいつかないだろうか。
 理論的な根拠は浮かばないが、私は、きっと食らいつくと思う。
 なぜだろう、漠然とした自信がある。
 漠然と、メロンパンが好きで好きでたまらない人間というのは、そういう存在なのだと、私は知っている。
 何だ。
 都会を映していた視界が、突如原始的なものへと変わった。建物は消え、構造物は消え、一面ただただ土が広がっている。彩りは遠目にある一本の大木のみで、その下では男女が裸で話をしている。誰だろう。疑問を感じたのはほんの一瞬。彼らはアダムとイブ。アダムは、差し出した手にちょっと珍しい種類の画鋲をたっぷり盛って「メロンパンだよ」とイブに迫っていた。
 これは……、前世の記憶だ。
 私は知っていた。この先の答えを知っていたから、確信があったのだ。
「メロンパンだ!」
 アダムの腕に跳びかかるイブの叫びも、声紋一致で知っていた。
 あとは、聖書通りの展開が続く。