熱毒

 料理人が一つのキノコと出会う。
 そのキノコは無毒だが、やたらと苦味ばしっていて食べられたものじゃない。しかし口から消えて少しすると、細い、独特で魅力的な味と香りの一線が現れる。
 料理人は、その時間的にわずかな昇りに強く惹きつけられた。
 試行錯誤の研究がはじまる。
 ほかの味で苦味が目立たないようにしてみたり、何時間も煮てアクを取ってみたり、気味の悪いインドの粉をすり込んでみたりした。
 けれど苦味は変わらない。いくつもの年月が過ぎていくが、試食のたびに吐き出してしまう。
 料理人は気付く。
 この強烈な苦味の特性を、キノコとそれがいる空間から取り除くことは不可能なのだ。これは、そういうものなのだ。
 気付いてからの行動は早かった。
 三日後、厨房に立つ料理人の頭頂部にはいくつかの穴が空いていた。コック帽を被ればすぐ隠れる程度のその穴は、手術により、苦味を伝達する神経を取り去った結果だった。
 料理人は、唯一無二の至高を得た。
 翌日、店のメニューに苦味ばしったキノコの料理が追加された。簡単な焼きものですら三千円と高級店レベルに値は張るが、手術費込みと考えればそうでもないと、客からは大評判だ。