自分自分

 自殺した幽霊が嘆いている。
 私は死んだのに、どうして私の過去は生きているんだろう。私が作ったものだとか、家族の心の中だとか、友達の心の中だとか。私は、私が嫌で死んだのに、どうして丸ごと消えてくれないんだ。
 消してやりたい。
 だけど私は、物に触れることができない。生前の私がいる写真や、生前の私が書いた書類、生前の私が落書きした壁なんかは、おそらくずっとずっと、現在の生きている所有者が心変わりしない限りはそのままでいるだろう。
 私が消せるのは、生きものだけだ。生きものにとりつけば、ちょっとだけその挙動を弄ることができる。手足を操って作業させるような複雑なことは、新参者の自分にはまだまだ難しいが、心臓の動きを無理やり速めたりだとか、単純なことならできる。繰り返しやれば、それで過去ごと消してやることができる。
 私なんか所詮はただの幽霊。完璧に過去を消すことはできないが、それでも、ちょっとだけでも過去を消すことができるなら…。