フルーツと排水溝

 排水溝にいくらフルーツを詰めても、固定できない。硬くて大きなココナッツを排水溝にぴたりとはめ込んだところで、それは同じ。定期的にやってくる水流によって全部流されてしまう。
 どうして…。
 僕は嘆いた。どのようにすれば、この排水溝にフルーツを固定することができるのだろう。様々なフルーツや方法を試してみたが、どれも無理だった。せいぜい水流に耐えるのが何秒か延びるくらい。
 もし、この場にもっと重いフルーツがあれば状況は変わるだろうか。そこそこの津波が直撃しても、ずっとその位置で固定されたままのフルーツ。
 でも、残念ながらそんなフルーツは見たことがない。世界中のフルーツを知っている僕が見たことがないということは、そんな超重量のフルーツは存在しないということだ。でも、今の状況を打破するにはそのようなフルーツが絶対に必要なのだ。でも、現実としてそれは絶対に存在していない。…。
 希望に狂っていると、突然背中に暖かな感触がした。驚いて二歩ほど離れてから振り返ると、そこには足先にも届きそうな長いカラフルなあごひげをもった老人が、右手を伸ばしてそこにいた。僕はその奇抜な姿にまた驚きかけたが、どこかで見たことのある姿だと気付いて寸前で耐えた。会釈する。
 正体は、記憶の中からすぐに見つかった。目の前にいるこの老人は、名前をフルーツ仙人といい、フルーツを自在に創ることができる伝説の存在だ。以前読んだフルーツの学術書によれば、世界にある全てのフルーツは彼が創ったのだという。
 感情が喜びへと一気にシフトしていた。彼がいれば排水溝に詰めても、…いや排水溝の中央にぽつんと置くだけでも排水溝の水流によって動かされることがない、究極のフルーツを手に入れることができるかもしれない。
 夢がかなう!
 おおフルーツ仙人様、世界にあるすべての金属よりもずっとずっと重くて、いかなる状況においても絶対に傷付かず、劣化することも絶対にない、宇宙が滅んでも永遠にこの排水溝に存在し続けることのできる素晴らしいフルーツをどうか創って頂けないでしょうか。味や食感はどうでも構いません。匂いも最低最悪でいいです。食べられなくてもいいです。この排水溝に固定できさえすればいいんです。この排水溝に固定する意味は一切、神に誓ってもありません。ただなんとなく、水の流れていく排水溝にフルーツを置いてみたいなって…、ああ、だから、どうか…! どうか!!
「どうして…」
 そう言うフルーツ仙人の顔は、ただただ悲しげな表情、涙目。