概要+

 病弱な少年。母がいつもの薬を与えている。「はやく良くなるといいね」とか言いながら。
 でも、病気の原因はその薬。薬が毎月の予定日を超えても配達されてこないことで少年の容態が悪化し、近場の病院に駆け込んだことで発覚した。念のために別の病院に行ってみても同じだった。
 薬はインターネットで購入したものだ。あまりにも酷い仕打ちに、復讐の文句を飛ばしてやろうと電話番号をチェックするが、サイト上には記載されていない。メールアドレスも記載されておらず、簡単な紹介記事とフォームだけがあるサイトだった。しかし住所はあった。見慣れない言語で書かれたそれは、翻訳してみるとチベットの山奥だった。
 一家は、少年を病院で治療すると(2週間ほどで完全に回復し、体質も健康的なものになった)、罵倒とこれ以上の被害を食い止めるためにチベットを目指す。
 途中、飛行機が墜落したり、とんでもないことが起きたり、とんでもないことを起こされたりした。いかだの作り方を教えてくれた青年が、目の前で異次元空間に飲み込まれていったりもした。父が最初の墜落で、母が2度目の墜落で死亡したりもした。
 そんな末に到着したチベットは、風評以上にメカニカルな景色が広がっており、山は完璧な銀色だった。
 少年は、戦士ミラコフの形見である伸縮自在のレーザーブレードで機械兵士をなぎ倒しながら山を進んでいく。頂上には、あのサイトのロゴが表面に描かれた球体があり、それを破壊すると、両断されながらもゾンビのように蠢いていた機械兵士が動かなくなり、サイトはインターネット上から消失した。
 苦難が終わり、少年は足元にあるチベットを現地語で激しく罵倒した。しかしどれだけ言葉で攻撃しても、壊れきった機械の人格からは何の反応もなく、また死んだ両親が帰ってくるわけでもなかった。戦士ミラコフや絵師ディガン、異次元に連れ去られた青年も同様だ。
 むなしい。やがて、少年は罵倒をやめた。
 地面が揺れて、空が縦に流れていく。動力を失った浮遊大陸は、まもなく地球に衝突する。状況を視界の端で客観視しながら、少年は既に終えた人生の数分を家族と仲間がいた頃の記憶で過ごす。