妄執ロボット

 テレビのチャンネルを家族が無作為に変えていると、一瞬、ロボット同士がサッカー対決をしている場面が映った。
 正確にはPK戦だろうか。攻撃側と防御側に人型のものが1機ずつおり、今まさに攻撃側がボールを蹴り放ったところだった。そして防御側は、背後にボールを通すまいとして体を動かし…、いや動かなかった。完全に動いていないわけではないが、その動きはボールを止めようという動きとはほど遠いものだった。
 ボールがロボットの横を過ぎていく。防御側のロボットは、手も足も具体的に動かすことなくただ両腕を小刻みに震わせていた。
 悔しそうに見えた。
 年に1度しかない大会でこのような失態、たしかに悔しいだろう。防御しなければならないのに、防御できないのだ。動きたいのに、しかし防御してはならない。この場で防御などすれば、人質となった家族の命をヤツに奪われてしまうから。動いてはならない。動いてはならない。卑劣で理不尽な状況、何もできない自分への怒りで、両腕は小刻みに震える。くそ。くそ。くそ。
 そう見えた。
 幻覚といえば幻覚。しかしあの震えには、それだけの状況をはっきり想起させるだけの感情が存在していた。最終的に試合で負けたとしても、他のどんな二足歩行型ロボットよりも人間らしさでは勝っていたと思う。友達になりたい。