真意と真意

 一人の男が「饅頭怖い」と告白した。
 それまで何物にも怯えない屈強な男を語っていた彼だけに、お前そんな間抜けた物が嫌いなのかと、周囲の小坊主は笑って彼を馬鹿にする。ちょっとの罵倒を混じらせながら、馬鹿にして、馬鹿にして、馬鹿にしまくる。
 そのうち男は「言葉を口にしただけでも気分が悪い」と言って、よろよろと寝室に帰っていった。
 小坊主どもは、しめた、と顔を合わせてニンマリ。こそりこそりと、音を立てないように台所の棚から大量の饅頭を持ち出すと、男の寝室へと投げ込んでいく。
 あの強がりの男はいつ饅頭に気付いて絶叫をあげるだろうか。どれくらいの時間が経てば、彼はいつもの無表情を解いて泣き声をあげるだろうか。いつ感情の鎧を脱いで、自分たちと向かい合ってくれるだろうか。
 小坊主は、どれだけ強引であれ、無表情を気取った彼が心を開く瞬間を期待していた。
 だが、寝室からは一つの音も聞こえてこない。
 寝てしまったのだろうか。
 饅頭を投げ入れるとき以上に静かに、静かに、ふすまを開けて覗いてみる。
 縦長の影がゆらり
 見慣れない寝室の飾りに小坊主どもが目をやると、そこでは男の首吊り死体が無表情にぶら下がっていた。

母を訪ねず

 子供の頃に始めた冒険は、気がつけば三千里を超える道のり。
 母がどの町のどの地区のどんな家に住んでいるのか、なんてことはとうに知っていて、顔も声も見聞きして、会話だってしたことがある。だけど、いざ母と対面して「僕は息子です」と伝えるには何かが足りず、機会を逃し続けている。
 そうこうしているうちに、僕の息子は税理士見習いの仕事を始めていた。向こうで通っていた大学の講師に気に入られてツテだけで仕事を手に入れたと、自虐混じりに、しかし嬉しそうに手紙には書かれていた。報告が事後なのはやや寂しい気がしたが、あれは昔から要領が良かった、など妻と語り合っていると不満は消し飛んだ。
 近々、息子は家へと戻ってくるらしい。仕事にちょっと余裕ができたから、自費で列車に乗って帰ってくるんだと大人ぶっていた。
 きっと僕は「頑張れよ」なんて言いながら、大げさに肩を叩いてやるんだろう。
 彼がこの土地を離れるまで、学年が上がるたびにそうしていた。初めてのアルバイトが決まったときもそうだったか。
 うす埃舞うレストランの、厨房寄りのいつもの席。そこからは給仕として働いている母の姿が常に確認できる。アルコールを飲まない僕ら家族に聞こえるように「カネにならねーんだから早く帰れよ」と大声で愚痴ったり、盛大な舌打ちを鳴らしている母の姿が、くっきりと。

Twitter

 まとまった時間と努力が僕から消えつつあるので、手軽なTwitterを始めることに。
 http://twitter.com/itisnot


 mistoaでお世話になっている loiolさんのように(http://twitter.com/meta_vacation)、日記ではなく広い意味での小ネタの場として活用していくつもりです。
 Twitterの一投稿における文字数の壁が140字なので、それを超えてしまった場合や、改行が欲しい場合には、ここや肌色のサイトに掲載していく感じになります。

FOR ONE

 犬の難解なおもちゃに隠されたもの (Exciteニュース)


 友達のジョンが、誕生日のプレゼントに犬用のおもちゃをくれた。
 僕は、さっそく飼い犬を呼んで遊ばせたんだけど、犬のビルマはその不可解なパズルに困り果てて、せっかくのプレゼントに噛み付いてヨダレまみれにしてしまった。
 ビルマは馬鹿な犬だったから、僕らは「やっぱりこうなったか」と手を叩いて笑いながら、けど、妙なことに気づく。
 僕は人間だ。人間は犬なんかと比べて脳の働きが素晴らしいし、何よりも「例」を蓄えておける記憶の容量がとんでもなく大きい。その二つを合わせれば、だいたいのものは何となくどう進めばいいのか、一歩目くらいはわかるものだ。
 でも、そのパズルは違った。
 脳みそが冷めていくのを感じ取れた。これは、一体どんな仕組みになっているのか。
 プレゼントの入っていた無地の箱には、「OPEN BY A DOG!」とゲームの軸を示しているのであろう商品名が書かれているが、スイッチや鍵穴はおろか、継ぎ目もない。鉄アレイにだって歯型を残すビルマの痕跡も、その青く、鈍い輝きを放つパズルの表面には見当たらない。
「……?」
 商品名がマジックで手書きというのも、どこか奇妙な感じがする。
 友人に尋ねると、新品じゃないからじゃないかという予測と、市外の骨董品屋で店主にせがまれて買ったのだという情報が返ってきた。
 言いながら、ジョンは飲みかけの炭酸に口をつけた。
 その時。
 ――リヂヂという音がどこからか聞こえた。その音を疑問に思う前に、突如、僕らのいる部屋は爆風と高熱に満たされた。


 目がさめると、僕は真っ白なベッドの上だった。天井も白い。
 痛い。
 全治一ヶ月の全身火傷らしい。激しい痛みがあるが、医者の説明によるとこれでも軽症とのことだ。僕と爆心のあいだにジョンとビルマがいたから、これだけで済んだ。
 彼らは死んだのだと聞かされた。
 原因は爆発だ。
 ガスの不始末をしていたらしい。僕が。そのせいで、こんなことになった。


 その日の夜、両親が病室を訪ねてきた。
 田舎から出てきた両親は、僕が生きていたことを気を遣いながら祝ってくれたが、もう正直どうでもよかった。親友は僕のせいで死んでしまったし、ビルマだってそうだ。住む家もなくなってしまったと聞く。
 ため息をすると病室の空気が重くなり、両親は気休めの言葉を吐いて、早々に引き上げるしかなかった。自分でも気味が悪いが、気がつくとそういうふうに仕向けていた。
 帰り際、両親は一つの小物を僕に手渡してきた。
 独りになってから確認すると、それはビルマの写真が添えられた、彼の遺灰だった。
 感情が滲む。
 間の抜けた犬だったが、大好きな、かけがえのない家族だった。それがこんなに小さな容器に収まってしまうなんて……。
 ぼろぼろの気持ちを繋げながら容器を開くと、そこは白い白い死の世界。十年前に祖父が死んだとき以来の、知っている世界。本当にいなくなったことを再認識して、吐き気のようなものがこみ上げてきた。違和感がなければ、本当に吐いていたのだろうか。
 遺灰の中に、知らない物が紛れ込んでいた。青く、鈍い輝きを放つ小さなかたまり。
 指先で触れて転がしてみると、それは歯だった。何度も唇をひん剥いて見慣れたビルマの歯が、一切の欠けもなく、完璧な形で残っている。
 記憶がうずいて、接点を呼び起こす。
 この歯の輝きの色は、あの奇妙な「犬のおもちゃ」と同じ色じゃなかったか。色だけじゃない。光の量もだ。あれに触れた部分だけが、こうして同じような光を放ち、奇妙に残っている。
 あれは一体何だったんだろう。
 悲しみそのままに、興味の向きがそれていく。
 亡くなった犬の歯が輝くなんて仕組みには聞き覚えがない。目の前の現状と頭の中の「例」から判断するに、あれが異質な何かを秘めていたのではないかと、僕はそう思った。
 ジョンは、あれを骨董屋の店主になかば無理強いされて買ったのだという。彼は何も知らない様子だったが、迫って買わせるということは、その骨董屋の店主は何かを知っているのかもしれない。手元から遠ざけたいような理由があったのかもしれない。
 何だ……?
 何かが、いろいろと奇妙だ。
 僕らが爆発に巻き込まれたのは偶然じゃないのか? 僕が引き起こした事故じゃないのか?


 次の日、僕は激痛の叫びをこらえながら病院を抜け出した。
 確信めいたものが、心には根付いていた。
 僕らは、あの難解な犬のおもちゃに隠された「何か」に巻き込まれたのだ。僕が進むためには、僕らを弔うためには、その「何か」を知らなくちゃならない。


 手始めに僕は、ジョンがよく出かけていたブルノ市へと骨董屋を探しに向かうことにした。


 ――


 この時はまだ、本当に、僕は何も解かっていなかった。


 まさか、あの難解な犬のおもちゃにそんな世界を覆すような秘密が隠されていただなんて……。
 僕が手にしたビルマの歯に、そんな役割が宿っていただなんて……。
 この直後、今も名前を知らない女性と運命的な出会いをすることになるなんて……。
 あとジョンが実は……、






 ……て感じの、ありがちな感じのサスペンスドラマが展開されてそうな記事のタイトルだと思ったけど、実は違ってた。

そのほか

 1.嘘つき少年が「狼男が来るぞ」と叫び、町じゅうを走り駆け回る。
 2.大人が少年を捕まえて「狼男なんていないよ」と言う。
 3.さらに「夢ばかり見ていないで、君はもっとちゃんとした人間にならないとダメだ」と、切々と説教する。
 4.堪りかねた少年、キレて大人を殺す。
 5.
 6.嘘つき少年が「狼男が来たぞ」と叫び、町じゅうを走り駆け回る。
 7.町の評判的には、少年が嘘つきじゃなくなる。