二人の話

 体が硬くて、巨大で、頭に角が八百本くらいある生きものって何だ。
 大仏。
 お、正解。よくわかったね。
 そりゃあわかるさ。
 大仏の頭にあるあの丸い突起は本来怒髪のように尖っていて、半径五万メートル以内に近寄ってきた悪魔を首振りだけで追い払っていたんだよな。
 そう。五万メートル以上遠くにいる悪魔には無限の距離だけ飛ぶ角を使って攻撃していた。
 角にはジェット噴射のように輝く尾がはえていた。
 とてもきれいな尾だった。
 尾は直線で五万メートルの長さがあった。
 悪魔はそれに近付くだけで死に、大仏はそれを意識するだけでどんな状態からも蘇り、身体機能を無限に強化した。
 やがて悪魔はこの世から絶滅する。
 暇になった大仏は眠る。
 目を開けて眠る。
 何億年も寝ているうちに地球上からはマグマの量が減り、海が生まれ、塵のような生きものが誕生し、進化し、健全な空気が流れるようになった。
 空気はさまざまな激動に揺れて、徐々に、徐々に、徐々に、大仏の角を削っていく。
 この世に人間が生まれた。
 さらに百万年後。
 とても頭の優れた商売人が大仏を見つけた。
 広めた。
 現在知られている大仏の姿は、あくまで本来の活力を失った休眠中の大仏の姿だ。
 そしてレプリカの姿だ。
 しかし、大仏の魂は生きていて、大仏の魂はレプリカにも宿る。
 再び世界に悪魔や、それに近いものが現れたとき、
 大仏の角は五万メートルまで伸びて、
 大仏の瞳孔は猫のように開き、
 大仏の肌は赤緑色、
 ゲル質、
 そして、大仏が放つであろう大あくびは地球の大地をまっさらで平坦に壊して、潰し尽くすのだ。
 四十五億年前と同じように。
 丁度、今のように一種の生きものが強く繁栄していたらしいね。
 歴史書によればな。
 そう。
 秘密の歴史書だ。
 あの時代、僕らが俗世間から隠れて生んだ闇の歴史だ。
 ふふ。
 ふふ。
 あれから三十年経った。
 ああ、そして僕らの心は変わらないままだ。

 二人は互いに近付くと、当時と変わらないぽつりとした動きでタッチを交わした。