価値のない夢をみた

 上階に人が集まっているときに、階段の一部床に穴をあけ、底にたくさんのトゲを仕込んでおく。
 階段から降りてくる人には穴が見えないので、注意を払えずにざっくり刺さる。
 痛がっている人を見て、僕は、赤色のヘルメットに四文字の言葉が書かれた看板を掲げながら「ドッキリでしたー!」と言って登場する。
 ドッキリの被害者は、途端に笑顔になると「なんだよー」と言うが、顔色は悪く立ち上がることができない。
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「それでは、スタジオにお返しします」
 映像がスタジオに戻ると、大爆笑の音とともに被害者の顔がアップにされる。ばつの悪い、しかし元気な彼の表情からカメラのズームを引くと、大勢の出演者の中、一人だけが足を伸ばして床に座っている。
 下向きの目線で、司会者が笑いながらそれに触れる。
「番組開始からずっとその姿勢だったのは、そういうことだったんですね」
 被害者が照れた様子で返事をすると、会場からはまた大爆笑の音。
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 ステージ中央のテレビモニターに売れっ子漫才師の片割れが立ち、企画に関する簡単な趣旨説明をする。そして最後、番組お決まりのポージングで画面はVTRへ移行しようとする。
 直前、漫才師の相方の上半身が二秒ほどアップになる。後頭部に手をやりおどけたポーズ。首には縄の跡。
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「それでは、スタジオにお返しします」
 スタジオの雰囲気は、やけに静まり返っている。
 今回、事情により、ドッキリの被害者が恒例の言葉をいえずに映像が終わったのが原因だろうか。状況を察知したモニター横の漫才師は、このような空気を作ってしまい申しわけないという姿勢を見せながら、被害者である相方へと目配せをする。
「なんだよー」
 声が終わらぬうちに、大爆笑の音が重なる。
 被害者の声は、普段の仕事で見せるような切れのある声ではなく、とんでもなく濁ったものだったが、そんなことは問題ではない。平気、冗談、これを本人が説明することがこの場では大切なのであって、その他の付属ベクサボード的な目サ要素は
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 そういえば、僕はどこへいったんだろう。
 意識が横に動くと、ソファーに肩肘ついて寝転んでいる自分の姿に気付いて、ヘルメットの感触が消えていることに気付いて、
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 終わり。