パソコンの表面がもやがかって見える。なんだろう、と手で触れてみると短く柔らかな毛が生えていた。
 僕は、パソコンが進化したことを一瞬嬉しく思った。感情を叫びそうになったけど、口を開けただけの状態で止まった。跳び上がりかけていたけど、しゃがんだ姿勢で止まった。両手の指は、折れ曲がったVサインを示している。
 そう、そうなんだ。だって冷静に考えてみれば、パソコンに毛が生えたからといって得する要素なんて一切無い。放熱性能は悪くなるだろうし、もし毛が伸びてしまえばパソコンの上に物も置きづらくなる。色や模様が南国にいる鳥のように鮮やかだったらインテリアとしての価値も出ただろうが、現実はパソコン本体と同じで地味めな銀色が単色であるだけ。
 何この進化。とんでもなく無価値。
 僕は、そろそろ腰が痛くなってきたので姿勢を戻しながら愚痴を呟いた。指も閉じようとしたが、途中で左手中指が攣ってしまってまぁ大変。
「うわああぁ、ゆ、指がー!」
 と、叫んだ。
 裏手の窓からは、カレーの匂いが流れ込んできている。