龍の人

 前の日曜日に放送されていた大食いの大会を、今になって観た。
 今回の大会は、大食いブームの火付け役たるテレビ東京が主催するものとしては久々の大きな大会であり、同時に、大食い選手の中でも名のある白田信幸(ジャイアント白田)選手の引退試合でもあった。
 そんな事情を含んだ大会の決勝戦
 白田選手にとっての最終戦
 ライバル選手との結末不透明なレースを展開させていた白田選手が、突然椅子から立ち上がり「龍門が開いた!」と叫んだ。
 体格の良い白田選手が立ち上がったこともあって強い迫力があったが、周りにいた人たちはポカンとしていた。
 数秒の間のあとに足された医師の解説によれば、どうやら(ここで言う)龍門とは、胃から腸に通じる穴のことらしかった。龍門が開くことで胃の内容物が一気に流れて、胃に余裕が生まれる。戦いは終盤で、勢いの落ちた大食い選手にとっては大きなプラスだろう。
 白田選手は、そのプラスの変化を喜び、雄叫びを上げたのだ。
 開いた龍門のおかげか、その後、白田選手は余裕をもって優勝した。そして堂々の引退。
「龍門が開いた!」
 これが、白田信幸が現役の大食い選手として、試合中に放った最後の言葉となる。
 大食いにあまり興味ない人がこの事実を端的に知ったとき、大食いの真剣勝負とはどういうものなのか、考え込んでしまいそうだ。多少狂った方向ではあるが、ある意味で深い。
「龍門が開いた!」
 自分としては、白田選手のこの発言と立ち上がる様子から、ドラゴンボールなどのバトル漫画で見られるオーラ描写を連想した。
 龍門が開いたと叫んで立ち上がった白田選手は、全身から青色の光を噴出させる。もしくは、身にまとっている青色の光が金色へと変化して、そこそこ長い頭髪が逆立つ。この光がオーラだ。ドラゴンボールを読んだ記憶によると、オーラ(気)を出せるくらいの達人ならば、大抵は自在に空を飛ぶことができるようだ。つまり、白田選手は空を飛べる可能性が高い。
 夢が広がる、といえば広がる。
 オーラをまとったり空を飛んだり、大食いをするには不要な進化かもしれない。自分もそう思う。
「龍門が開いた!」
 しかし、この起立と同時にされた発言には、それらの超常現象を「もしかしたら」と期待させるだけのインパクトと魅力を備えている。
 もしかすると、今はまだ遠くとも、将来の大食いとはこうなるのかもしれない。
「」
 龍門が開き、空中戦を展開する大食い選手二人。
 うどんをすすりながら、ギャリック砲を放つのは曽根選手。荒井選手はうどんをすすりながら回避したが、会場が跡形もなく消し飛んだ。
「」
 ……、大食いではない。
 こんな進化を求める自分が間違っていたのか。このまま、今の大食いのままでいてほしい。
「龍門が開いた!」
                「龍門が開いた!」
      「龍門が開いた!」
 ただ、この発言自体は好きだ。発言時の白田選手の異様なテンションも含めて、大好きだ。これだけは譲れない。
 引退後に始めるらしい飲食店ビジネスを成功させて、二十年後くらいに「龍門が開いた!」という題名の自己啓発本でも出せばいいのに、と思う。頑張ってください、白田信幸さん。応援しています。