部屋のひと部屋

 昨日さ、箱に入ったの。すげぇ狭い箱。
 お前、こういうさ、体育座りしないと入れないくらいの箱って入ったことあるか。あれ驚くぜ。実際入るとさ、外で見てるよりもやたら狭い感覚がするんだ。マジ、ビビるぜ。
 バカ。マジ違うんだって。俺も最初はそんなこと思わなかったけどさ、今はもう、箱に入るときの心構えが変わったし。
 しかも、しかもだぜ。フタが閉まったら閉まったで真っ暗闇だわ、運搬の揺れだわでさらにビビるんだ。これ。
 いやいや、ビビり過ぎじゃねぇって。本当にこれビビるっつーか、マジ。
 さすがに泣いてはねぇよ。ただ、揺れはじめたときは「うわ」なんて怯えた声出しちゃって、ちょっと恥ずかしかったけど、それだけだぜ。運搬の人に聞かれてたんだろうな、あれ。
 あ、そうだ。この仕事さ、今度の木曜にもまた行くからお前のこと紹介しといてやるよ。日給一万二千円、どうだ来るだろ。
 バカ。運搬になんか勤めさせるかよ。俺のビビリ声が聞こえちまうだろ。それにお前の筋力じゃ、黄金製の箱は肩まで持ち上がらねぇし。持ち上がったとしても、そのまま何時間もウロウロは無理。雇われねぇ。
 ってか、茶化し合いはおいといてさ、どうせ大学は夏休みで暇だろ。今度来いよ。な。箱の人手が足りてねぇんだよ。