待ちぼうけ

 きめ細かなコンクリートの床。側面のうちのひとつがシャッターで、ほかは床と同じような質感のコンクリートの壁。シャッターと向かいの壁にはドアがあるけど、建てつけが悪くて開けることができない。
 もたれかかったシャッターはわずかに暖かく、きっと外は陽光で照っているんだろうなと感じさせる。光自体、こんな蛍光灯生まれのものとは違って健康そうだ。
「出たいなぁ」
 でも出られない。僕は、ここにいなければならないから。
 腕時計を見ると、今の時間は昼の1時をちょっと過ぎたくらい。約束の時間が2時なので、まだしばらくこのままの状態で待つことになりそうだ。
 このままの状態。背中のすぐ先で日向ぼっこしながら待っていてはいけないし、シャッターを開けてもいけない。今のこの部屋の状態を何も変えることなく待たなくてはいけない。何もないこの部屋で。
 きめ細かなコンクリートの床。側面のうちのひとつがシャッターで、ほかは床と同じような質感のコンクリートの壁。シャッターと向かいの面の壁にはドアがあるけど、何をやっても開けることができなかった。建てつけが悪いんじゃなくて、ここの住人が使わなくなったから固定されているのかもしれない。
 もう何度目かの確認。想像を膨らませてヒマを潰せそうな面白い模様や汚れはないし、いじくってヒマを潰せそうな小物もない。切れたケーブルならあるけど、これじゃなぁ…。
 ケーブルは黒い厚めのビニールに包まれた電源ケーブルで、コネクタ側には湿気で固まったほこりがくっきりと絡まっている。長さは僕の腕を伸ばしたのと同じくらいの長さ。この倍でもあれば縄跳びで遊べただろうけど、これじゃちょっと無理だ。中途半端な長さ。
 何のケーブルだったんだろう。ここに落ちているということは、この場所で使っていた機械なんだろうけど、ヒントがゼロに近い。ケーブルを包むビニールの感じからすると、それなりに重量がある機械のケーブルだろうか。部屋の作りが元ガレージっぽいから、車に使うやつだろうか。
 専門的な知識があれば、ここから推理を広げて答えを出せるのかな。知識の無い僕には、この先の発想が打ち止めだった。
 あ、ここで電源ケーブルを使っていたということは、コンセントの穴がどこかにあるんじゃないか。携帯電話を充電することができれば、ヒマを潰すのなんか簡単だ。
 じっとコンセントの穴がありそうな高さの壁を見渡す。だけど、あるのは壁、壁、壁、シャッター。もしかすると予想以上に高い位置にあるのかもしれないと目を上げても、やっぱり壁、壁、壁、シャッター。
 近寄って見てみても、コンセントの穴なんて1つも確認することができなかった。壁、壁、壁、壁、壁、壁、…。一部だけ不自然にコンクリートが盛り上がったところなら発見することができたが、それは既に「だった」という過去形だ。電気は供給されていない。
「はあぁぁぁあ…」
 痕跡から確実に無いことを理解して、僕は息を吐き出しながらコンクリートの床に背中から倒れこむ。背中の冷たさが予想以上に不快で、次の瞬間には上半身を起こしていた。
 膝立ちの姿勢でぐるりと見渡す。
 きめ細かなコンクリートの床と壁、ドア、シャッター。もうじっくり何かを見るのもだるい。ついでとはいえ、わざわざどの壁にも近寄ってじっくり見たんだからこれ以上の発見もないと思うし。
 僕はとりあえず、切れたケーブルで地面をぱしんと打ちつける。ケーブルの長さがあれば縄跳びできたんだろうけどなぁ…。僕が半分のサイズに縮んでもいいけど、でも一生戻れなくなったら嫌だし、そんなに縄跳びが好きってわけでもないしなぁ…。そもそも縮んだりできないし。
 腕時計を見る。約束の時間までまだある。20分くらい。長さは…、ん、足りないかな。くそ。