スフィンクス

「またスフィンクスを疎かにして!」
 そう言った母は、私を犬のような姿勢で座らせると、派手なフルフェイスを被せて、東の方角を向くように体を回転させて、背中を手のひらを当てて私の背筋をしゃんとさせた。
「これでよし」
 このまま15分キープ。楽なように見えて、意外ときついこの体勢。ダイエットにいいらしいと母が聞きつけて以来、毎日やらされているのだけど、たしかにこれは筋肉を使う。やり続けていれば痩せられるだろう。
 でも何かやる気が起きない。これは面倒だからじゃなくて、わざわざ東を向いてポージングしたり、この金色の装飾だらけのフルフェイスを被ることにどうも嫌な疑念を感じてしまうからだ。これらの余計は、痩せることに全く無関係だろう。フルフェイスも外見の割に意外と軽いし。
 チラリと母に視線をやると、母は長音でつないだ奇妙な音楽を歌いながら機敏にダンスを踊っていた。
 近隣の住民から抗議が来ることもあるほどの激しい1人祭り。母の動きも私のダイエットには無関係だし、明らかにあっちの方が痩せられる。
 なんだろう。理不尽さが気に食わない。
 でもそれを母に言うと、スフィンクスの何が理不尽なもんかと返される。私は、真剣な母の目つきと行動に流されて、今日も15分間のお勤めをやりとげる。一応、痩せてきてはいる。