うつつの

 向こうの友達が言ってた。
 血って、炭で炙って乾燥させたものを一度ばらばらにすると、ばらばらにする前の形に繋げ直しても、輸血には使えないんだって。
 水分を与えて液体の状態に戻してやっても、無理。輸血には使えない。弱っちぃ植物を相手にするみたいに、霧吹きを使って丁寧に水分を与えたって同じ。こうなった血を無理に輸血しちゃうと、病気になったり、死んじゃう可能性があるらしい。
 僕は、へぇ、と聞いてたけど、友達の横にいた友達の友達が反論してた。
 血って、炭で炙って乾燥させた時点で輸血には使えなくなるんだって。ばらばらにするとかそういうのは関係ないってさ。
 本当かな。どうもこの人って信用できないんだよね。だってさー、
 もう一人の別の友達が自慢げに話し出してた。
 そいつぁ、乾燥させるときにーぃににガスバーナーで直接水分を蒸発させっからぱーだーす。自然ドゥ乾燥さしゃーもずへコンプァ、一発ばらばらにしてダルクパーク、ーク、ーク、ーク、ほらね。へげんげ。
 何を言っているのか、途中で追いてけぼりにされちゃった感はあるけど、彼の言ってることはなんとなくわかる気がする。
 なかばうつろで飛び気味の景色な中、誰かがまた話し出してた。
 輸血用の血がどうとかいう話はもう終わってた。まぁ、ここにいる友達って誰も輸血の経験がないしね。似た痕はあるけど。
 あ。窓がまぶしい。
 もう朝かな。
 オーロラめいたものがそこで光ってる。いつものやつ。オーロラじゃないのは知ってる。目を閉じても、ずっとそこで弱っちく震動してるのが見えるし。
 きれい? きれいな気がする。
 きれいな気がする。
 きれいな気がするって?
 へへっ。
 静かな海の上、船の上で、船酔いを仕掛けられているかのにみたいに、気分の悪さが緩やかに混じってきた。夢のようなふわついた感触があるくせに底の場所から不快が増してくる。安易な逃げ場はなくっって、忍び込みの緩やかは緩やかなままに、僕は、ちょっとずつ気分が悪くなってく。
 冷たいフローリングの床が僕を保ってくれたのは元気なときで、今疲れた僕は、偽のオーロラだけが意識の頼りの。
 頼り? 頼りにしたって、保ったからって?
 ちっと疑問もある、僕はどこか別のものになりたかった。炭で血を炙ってた。
 ばらばらにはなしない。
 してない。
 してるかもしれないけどしれないけど。
 ああ、大丈夫。
 大丈夫。
 目を閉じるとまた一定量のオーロラもどきが見えた。最初は鮮やかだったオーロラもどきだったが、次第に黒ずむ。これは自分の眠気だ。いつものことなのでわかっていた。脳みそが休みたがっている。
 ん?
 ってた。今のうちに寝よう。
 。