だらだらだらりと終わっていくよ

 やっべ、血塗られた。
 これからデートだってのに、血塗られちまったよ、どうするよー。腹からドクドク血が出てるよー。なんじゃこりゃー、てカンジ。ケハハ。
 て、冗談言ってる場合じゃねぇっつの。はやく血ぃ拭かないと、もうそろそろチヒロ来ちまうよー。
 たしかジャケットにポケットティッシュ入れてたよな。ポケットティッシュ、ポケットティッシュ……っと、ああ、駄目だ。二つとも、血でビショビショっていうか、すげーズクズク。
 どうすんだよー。
 あ、あ、人だ。誰か知らないけど、女の人がきた。今、ちょうどやってきて、信号待ちしてる。
 すんませーん、ポケットティッシュ持ってないっすかね。
「ギャッ」
 いやー、僕、今ついさっき、突然血塗られちゃったんすよ。それでこれからデートで、だから急いでるんすよ。そんで、ポケットティッシュありますかね?
「え、あ、持ってますけど……」
 わ、五個もありがとうございます。
 あれ、てーか、もしかして風邪でも引いてます?
「いえ……」
 よかったー。それじゃあこれ全部貰っていいっすかね。ポケットティッシュの一個や二個だと足りないっぽかったんで。
 あ、まだ赤信号なのに……。
 行っちゃったか。ま、親切な人で助かったー。これでなんとか、チヒロが来るまでには間に合いそうかな。
 あれ。
 ちょっと、目の前が白っぽいな。
 ポケットティッシュが一枚、顔にかかってるのか。いやでも、ポケットティッシュが一枚だけ飛んでいくような開けかたも出しかたもしてないし、状況がそうでも、とんでもなく奇跡的な状況だ、それは。そもそも、ポケットティッシュは、もう、さっきの五個も合わせて全部赤いし、……。
 ……寒い。
 ……寒いな。
 血を拭くものの他に、毛布も必要かもしれないな。でも、これからデートすんのに、毛布はちょっと違うかもな、ケヘヘ。ダセェ。
 やっぱ、毛布よりもコートだ。コートがほしい。今のコートは、腹のところがスースーするから、傷物じゃないのがいい。今着てるやつくらい、カッコイイのだったら、もっといい。
 誰か、コートくれないかな。借りるだけでもいいから、これ、ちょい、ヤバイ。
 ……。
 デートまでの時間は、もう、あと何分だ。
 手が、やけに震える。頭もクラクラして、腕時計のデジタル表示が、残像か何かと混じって、うえ、気分悪い。
 時間も読めない。
 誰か、通りかかってくれねーかな。
 立てない。
 ……。
 あ、えーと……、チヒロか?
 ワリー、寝てたみたいだ。てかどうしちまったんだお前、そんなに泣いちゃってさ。大丈夫だって、ちょっと血塗られただけ。せっかくのデートなのに、ダセー格好見せちゃってゴメンな。
 ああそうだ、ティッシュ持ってないか。
 それで血ぃ拭いたらさ、服買いに行こうぜ。揃いのコートでも買おう。ああ揃いはダセェか。ケヘヘ。
 ならお互い、好きなの買おうぜ。カネならあるからさ、好きなの選んでくれよ。それで、その足でメシ食いに行こう。昔、チヒロの誕生日に行ったことあるだろ、あのイタリア料理店を予約してるんだ。
 おいチヒロ。聞いてんのか?
 電話なんかしてねーで、ティッシュくれよ。遊びたいだろ。せっかく雪も降ってきたんだ。しゃれ込もうぜ。
 え、何?
 何言ってんのか、全然わかんねぇ。
 はやく、ティッシュくれよ。服屋にも入れねぇじゃねーか。
 泣くなって。
 大丈夫だからさぁ……。
 ……。