ライトカラーの世界

「スイスは右下」
 金色蜂が散らばって飛ぶその上で、水色のクラウドはあっちの方角へと向かっていた。
 あっちの山はとても鋭角。色がないからそんな部分で勝負しようとしているのか、なんでも貫いてしまいそうなほど貪欲に尖っている。
 実際、無防備にふわふわと移動していた水色のクラウドは、真下から伸びてきた鋭角に体を貫通されてしまった。山は、水色のクラウドより上空にある先端を揺らして、雄叫びのごとく喜びを表現する。
 水色のクラウドは、必死に、焦りを混じらせながら、とにかく山の鋭角から逃れようと複雑に体をくねらせる。
「靴底」
 だが、身体を通り抜けているものがそう簡単に外せるわけがない。
 そうしている間にも、山は水色のクラウドからどんどん色を奪っていく。クラウドが水色じゃなくなり、クラウドから色が失われていく。
「ほうき星」
 やがて色の涸れたクラウドは、水色で丸っこくなった山にポイと捨てられる。元いた場所へと根気なく流れていく。
 一部始終を低空から見ていた金色蜂の群れは、間抜けなクラウドを馬鹿にしてからかった。普段は同族で仲違いばかりしている彼らだが、このときばかりは楽しさを優先したようだ。
「六角レンチ」
「横恋慕」
 空を向いて卑語を連発する。
 色のないクラウドは、怒りと貪欲さからトゲだらけになった体を金色蜂に向けて精一杯伸ばす。だが、かなりの距離が空いてトゲは届かない。
 いつの間にか、からかいには緑色の草原も参加していた。
「連続するその世界の構造式」
 触れられたくないその事柄を突かれて、クラウドの感情は爆発する。
 クラウドは、自分の体を小さないくつもの粒に変えて落下する。雨と呼ばれるその形状は、上空から低空、さらに下へ。それぞれが鋭利なクラウドの粒は、金色蜂の群れと緑色の草原と、巻き添えにその他の虫や地面までもを突き刺して色を奪う。
 報復に加え、各々の色を手に入れて満足したクラウドは、穏やかな丸型の蒸気へと雨粒を変化させ、上昇しながら集合していく。
 色を奪われた蜂や草原たちは、クラウドのことをとても嫌な視線で睨んでいる。しかし、統一性のない複色が元のクラウドの形に合成すると、すぐにそれは解消された。
論語論語
 色をなくした蜂たちは、悲しむよりもまずクラウドの色を笑った。その色は、とんでもなく汚い。
 そしてまた卑語を飛ばす。
「紅蓮」
「連続するその世界の構造式式式」
 変わらない状況にクラウドは悲惨な気持ちになった。
 クラウドは、さっき水色を奪われたのとは違うあっちの方角へと、逃げるように移動していく。そこで色のない山に襲われようとしたのだが、しかし山は鋭角をびくりともさせずに、蜂たちと同じように、とんでもなく汚い色のクラウドを馬鹿にしてからかった。
「ほうれん草」
 絶望に暮れたクラウドは、涙を流すように雨になった。
 とんでもなく汚い色の雨粒は、山のふもとにいた赤色のナメクジを叩いて不快にさせた。ただそれだけだった。