高円寺

 ルルリラララララ。
 ぐるぐると回りながら彼女はそう言って2段ジャンプ、宙返り、また宙返り、また宙返り、着地して、ルルリラララララ、ルルリラララララ、言いながらまた回転。
 かれこれ5分はずっとこれの繰り返し。とは言ってもまったく状況変わらずというわけではなく、彼女の位置は少しずつ動いているようだ。この移動の流れからすると、商店街のほうに行こうとしているのかな。
 面倒くさい移動方法だ。あくびをしながら見つめる。わざわざそこまで回転を取り入れて移動することはないだろうに。
 僕は笑いかけて、しかしハッとして止まる。
 そういえば回転の中にある彼女の顔は見覚えがあるぞ。そうだ、あれはたしか、交番にあった指名手配犯の、 …そういうことか!
 彼女のあの特異な移動方法は、自らの顔を回転で隠すためのものだったのだ。そしてあの異音「ルルリラララララ」は彼女の下の名前である瑠璃(るり)を表しており、指名手配犯の身でありながらも自己を失ってはいないという証明であり、宣言。このような状況下で自分をアピールしながら移動するとは、何という心の強さだろうか。
 僕は年甲斐もなく感動してしまった。涙で全てのものは見えなくなり、世界は水没した。いかだに乗った僕は、3年かけて伝説のブラジルへと到達したが、そこには平べったい海しかなく、僕はまたも泣いた。(指名手配の彼女はとっくに溺死していた)