鹿がこちらを見ている

 鹿がこちらを見ている。
 僕は鹿せんべいを持っているわけではないし、鹿の気を惹くような行動を取っているわけでもない。服だって地味だ。
 どうして鹿は、じっと僕のことを見つめているのだろう。僕なんて、ただ椅子に座ってくつろいでいるだけなのに。どうして鹿は、窓の外から、飽きもせずじぃっと??
 とりあえず鹿のほうに手を振ってやる。食事を運んできたスチュワーデスの表情が怪訝なものへと変化した。鹿がこちらを見ていることを説明すると、軽く怯えられた。