追跡者

 影が、さっきまでそこにあった。でも、今はそこにはない。
 どこに行ったんだろう。戸棚やカーテンの裏、クローゼットの中なんかを探してみたけど、出てくる影は形の違うものばかり。
 正解の影は、十分ほど探してようやく見つけることができた。場所は居間から移動して、2階にある僕の部屋。地面にふと目をやると、当たり前のようにあった。
 どうしてこんなところに?
 一瞬疑問をもったが、答えはすぐにわかった。それは、僕が動いたからだ。
「あっはっはっは」
 あまりの馬鹿らしさに僕はちょっと吹き出してしまう。僕の影はわずかに前のめりになり、それに重なる別の影は、前後に激しく揺れていた。