僕らは一割生きている

 ダイエーの惣菜コーナーで、からあげ棒が売っていた。なんと、からあげが五個も刺さって百円の値段。
 あまりの光景に、一瞬、自分の目がおかしくなったのかと思った。からあげが五個で百円だなんて、リーズナブルに美味しい王将だって、サイゼリアだって、そこまでからあげを安くは提供していない。
 ここは、なんというか、まるで…、
“Here is where.”
 すぐ隣から、僕と同じように目を輝かせた父親が声をあげていた。
 母親と弟も続く。
“Here is where.”
“Here is where.”
 気付けば、この惣菜コーナーには、僕ら家族以外にも大量の人が集まっており、皆が同じ台詞を発していた。それ以外の言葉は話さなかった。
 やがて騒ぎを聞きつけて、数人の男が厨房から出てきた。中央の男は、険しい山道のようなコック帽を三つもかぶっており、コック長なのだとすぐにわかった。
 コック長について出てきた二人は、身の丈以上のフォークを地面につき立てて、僕らを威圧した。場が冷たく静かになって、皆、自分がダイエーで騒いだせいでこれからあのフォークで貫かれ殺されてしまうのだと予感した。死にたくはないが、ダイエーに迷惑をかけたのだから、当然の報いである。
 険しい山道のようなコック帽を三つもかぶったコック長が、一歩二歩と、我々客の中央へと入ってきた。ゆっくりと周囲を見渡す。
 そして高らかに声をあげた。
Here is EDEN!”
 フォークの先から、パン、パン、と破裂音が鳴って、色鮮やかな紙が舞った。
 皆、幸せな笑顔になって、からあげ棒をパッケージへと詰めてゆく。一つのパッケージの中にからあげ棒は四本まで入れることができ、僕ら家族は、パッケージ三つ分のからあげ棒を購入した。
 家に帰って食べると、まぁ、それなりに美味しいけど値段相応だよね、ていう味がした。